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  • 「葡萄とワインの美術」展ポスター
  • 展覧会図録「葡萄とワインの美術」表紙
  • 併設展「葡萄とワインの資料」展図録 「ぶどう彩 ワインを彩るなかまたち」表紙

2020.2.10(mon)

思い出の展覧会(63)
「葡萄とワインの美術」展
1993年5月22日(土)~8月22日(日)
山梨県立美術館

山梨県立美術館 学芸幹・学芸課長 井澤英理子

 1993年、開館15周年記念として「葡萄とワインの美術」展を開催した。名実ともに誇る山梨の名産品をテーマに、濱田隆館長と守屋正彦学芸課長が構想した。テーマに沿って美術や文化を概観するテーマ展自体も、地域の産業や観光の振興をめざす取り組みも、当時まだ珍しかった。斬新な企画だったと今振り返って思う。前年4月に採用されたばかりの私は、分野が〝古美術〞であったことから、この展覧会に携わる幸運に恵まれた。

 手始めに出品作品探しを命じられ、図録や美術書を片っ端からめくって、古今東西の葡萄文様、葡萄図、葡萄の文化史の情報を集めてみた。すると、外来文化を受容・模倣、消化吸収し、やがて自国文化に発展させるということを繰り返す日本文化において、外来文化との接点に必ず葡萄にまつわる美術が現れることが見えてきた。

 古代にはシルクロードを経て伝わった葡萄唐草文の鏡や染織品、寺院の平瓦、ワイン文化が香るガラスや鍍金の酒杯。中世には、高麗青磁の葡萄文、中国の堆朱や琉球漆器に見られる葡萄栗鼠文、宋元水墨画の葡萄図。近世には明清や李朝の葡萄図。あるいは西洋と出会い、キリスト教における葡萄とワインの象徴性が垣間見える南蛮屏風や南蛮漆器。近世には葡萄栽培が日本でも盛行したこともあいまって、葡萄の美術はさらに日本に浸透し、陶磁器や刀装具など葡萄の意匠が広範に展開するとともに、多くの画家が様々な表現で葡萄図を描いた。また葡萄棚図という日本独自の図様も生まれている。

 本展は、この変遷を辿るために全国の美術館、社寺、蒐集家から珠玉の名品を拝借し、理想をそのまま形にしたような贅沢な内容となった。濱田館長自らによる出品交渉と、守屋課長による予算獲得とマネージメントの賜物である。

 さらに本展では、山梨県ワイン酒造組合の協力を得て、葡萄栽培とワイン生産の道具、ワイングラスやアートラベルなどを集めた「葡萄とワインの資料展」も併設した。週末にはワインの試飲会、映画の夕べやコンサート、ワインの仕込み実演、山梨ゆかりの版画家作品のラベルを用いたワインの販売、等々、普及課の向山富士雄氏が中心となって、積極的に関連イベントを行った。

 多くの新しい試みを行った大規模展にもかかわらず、新米学芸員の私はまさに知らぬが仏で、担当が苦労すべき出品交渉、経費、運営などの難題に苦しめられることがあまりなかった。もちろん作品を拝借する緊張感、時代もジャンルも幅広く勉強が追いつかない焦り、失敗と猛省もあったが、葡萄という視点から見た美術史の眺望にわくわくし、選りすぐりの作品に囲まれて至福の喜びを感じた記憶が勝っている。経験を重ねた今になって、当時の未熟さと身の程知らずに恐ろしくなり、いかに多くの方に守り助けられていたかに思い至る。私にとって「葡萄とワインの美術」展は僥倖であり、規範と訓戒の原点でもある。

美連協ニュース145号[2020年2月号]より転載
(※役職、所属は掲載時)

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