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2018.2.10(sat)

思い出の展覧会(55)
光琳を慕う―中村芳中
2014 年9月26日(金)~ 11月3日(月・祝)
岡山県立美術館

岡山県立美術館学芸課長 中村麻里子

 中村芳中(?〜1819)の作品の中でまず思い浮かべるのは、後ろ姿の公家を描いた《公卿観楓図》(個人蔵)である。なぜ後ろ姿なのか、作者はへそまがりなのだろうか。それとも意表をついて鑑賞者を驚かせ、しめしめと笑っているのか。芳中がたくさん描いたとぼけた顔の鳥や動物たちも、にくめない愛嬌のある表情をしている。「琳派」と言うと、《風神雷神図屏風》や《燕子花図屏風》など金地に濃彩色の装飾的な作品を思い浮かべるかもしれないが、芳中はそうではなく、どちらかと言えば文人画に近い戯画的作風である。「かわいい」「素朴」などをテーマに掲げた江戸絵画を紹介する展覧会が当時流行りつつあったが、芳中のような「ほのぼの」「おおらか」という形容詞の似合う作風はまさに「癒し系」で、当世のニーズにぴったりであると思った。

 この展覧会は伊藤紫織氏(当時千葉市美術館学芸員・現尚美学園大学准教授)と福井麻純氏(細見美術館学芸員)のお2人が、これまであまり紹介されたこと のない芳中を本格的に取り上げる展覧会として立ち上げ、美連協を通して参加館を募っていた企画である。細見美術館には芳中作品が10数点もあるうえ、福井氏 は芳中研究者であり大坂画壇や琳派にも詳しい。また千葉市美術館には芳中の代表作の一つである《白梅図》があり、伊藤氏は伊藤若冲や曾我蕭白をはじめ江戸絵 画について優れた研究実績を積み重ねておられる。それに対し岡山県立美術館は「岡山ゆかりの作家の作品を収集」する館で、芳中作品は1点もない。このような 面白い作家を、岡山で紹介することに意義があると思ったが、芳中については門外漢であるため、お2人の企画に便乗させていただくのみということになる。しか しそれではあまりに残念であり、せっかく参加させていただくのなら何かできないかと考えた。

 芳中を紹介する資料の中に大原東野(1771〜1840)著の『名数画譜』附録があり、「中村徳哉 字芳中号達々 浪花人」としている。東野は大坂で名の 知れた画人で、晩年は現高松市にて過ごすが、40〜50歳代に備前市出身の医者で漢詩人、優れた書家でもある武元登々庵(1767〜1818)の紹介で、岡山県 和気町の豪農・大国家の依頼による作画活動にも携わっている。彼らの名前は『蒹葭堂日記』の中にもしばしば登場しており、芳中と同時代に大坂と備讃地域を結 ぶ様々な交友関係が見て取れる。そこで中村芳中展・関連展示ということで、大坂で過ごした岡山出身の画人・淵上旭江(1753〜1816)ら、岡山ゆかりの 画人たちを紹介する特別コーナーを設け、芳中展とともにご観覧いただけるようにした。旭江は全国各地の真景図を『山水奇観』8冊200図にまとめた画人で、同本は後に歌川広重も引用したとされる。

 これだけ多くの芳中作品を一堂に見ることのできる展覧会はこれが最初であり、芳中を本格的に世に出す機会に参加できたこと、また旭江ら同時代の備讃ゆかりの画人も特別出場させることができ、展示や図録に反映させることができたのは、担当学芸員としては役得で思い出深い展覧会であった。(大坂は歴史的表記)

※千葉市美術館、細見美術館(京都)を巡回

美連協ニュース137号[2018年2月号]より転載
(※役職、所属は掲載時)

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