2020.8.19(wed)
広島市現代美術館 主任学芸員 松岡剛
新型コロナウイルス感染拡大予防のため、広島市現代美術館が臨時休館に入ったのは2月29日。その時点で休館は3月16日までとされ、「式場隆三郞:脳室反射鏡」展は当初の計画から3日遅れの開幕に向け、展示作業は予定通り始められました。作業が佳境を迎える頃、休館はさらに3日間引き延ばされます。その後も小刻みな延長が繰り返され、当面は更新情報の周知に追われるばかりでした。3月末頃にようやく、先を見据える余裕が生まれてきます。当館のもうひとつの「開かずの展覧会」であった、コレクション展の告知と連動させながら、ウェブ上での情報発信にとりかかりました。
まずは、展示会場の一角を臨時休館中の無人状態とともにお伝えする短い動画から。それは、しばらく続くであろう休館のあいだ、館の存在を時折思い出して貰うことを目的とし、無理なくテンポ良く発信できる形態を求めたことによります。こうして、館の広報担当者と学芸員による、普段では躊躇されるような手作り感満載の動画を「無観客美術館」シリーズとして随時公開していきました。
それでもまだ休館は続きそう、ということで次はより具体的な内容紹介です。まるでその時機を窺うかのように、編集者の都築響一氏が自身のメールマガジン上での誌上展を企画して下さったのでした。その内容を当館のサイトにも転載、これまでのコンテンツと組み合わせ、「おうちで式場展」としてまとめなおし、外出自粛が呼びかけられるゴールデンウィークに備えることができました。
もう、この展覧会は開かないまま終わってしまうのではないか?やがてそんな疑念もよぎり、ネタバレを心配している場合ではなくなります。急ぎ、作家の友枝望氏に協力を依頼、360度カメラによる会場写真に解説や作品画像を組み合わせた「バーチャル展覧会」をウェブのコンテンツに追加したのです。それは、今はもう存在しない「ゴッホ複製画展」や「二笑亭」の再構成を試みた本展自体が幻に終わるという、残念な事態へのささやかな抵抗でもありました。
一方、会期中に読売新聞で連載予定だった展示紹介の原稿は、掲載の機会を失ったままでした。そこで、お蔵入り状態の原稿を救済しつつ、臨時休館中の様子を取材した記事と組み合わせた、「紙上美術館」なる、より本格的な連載企画へと生まれ変わります。展示内容を紹介しつつ、その舞台裏や現状をも前景化させる、担当記者による機智に富む応答でした。
こうした、館内外の人々との普段とは異なる協働は、美術館活動の新たな可能性を感じさせるものでした。それは後に、展覧会の会期延長と開幕が何とか果たせた事と同じくらい、たいへん幸運な成り行きであったのだと思います。同僚と関係の皆様に心より感謝致します。
美連協ニュース147号[2020年8月号]より転載
(※役職、所属は掲載時)