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  • アムステルダムへの直行便が欠航したため、シンガポール経由で空輸。同地で、急遽雇った現地の美術品輸送業者の立会のもと、クレートの積替をしている様子。(4月4日)
    写真提供:日本通運株式会社
  • クレートを載せた便がアムステルダムに到着したところ。オランダの美術品輸送業者が写真を送付してくれた。(4月6日)
    写真提供:日本通運株式会社

2020.8.20(thu)

特集 新型コロナウイルス奮闘記
「インポッシブル・アーキテクチャー」展
【埼玉県立近代美術館】

埼玉県立近代美術館 学芸主幹 平野到



 今年に入って報道され始めた新型コロナウイルスのニュースから、不穏な空気を感じてはいた。しかし、当館が幹事館を担い、最終会場の国立国際美術館に巡回中であった「インポッシブル・アーキテクチャー」が会期途中で突如閉幕するとは、露ほども想像しなかった。

 閉幕する2月28日の4日前、重要な借用先であったカナダ建築センターのマルティン・デ・フレッターさんとメールで交信をしている。デ・フレッターさんのメールでは、巡回展の最後を飾る関連事業として3月14日に国立国際美術館で予定されていた自らの講演会に向けて抱負が綴られ、「渡航にあたってウイルスに対する不安はない」と記されていた。同センターがあるモントリオールでは、2月末の時点で、ウイルスが拡散していく驚異を社会的に認識するには至っていなかったのだろう。結局、展覧会閉幕に伴い、講演会は中止となり、その後カナダも感染者数が激増する。今度は「返却の空輸を数カ月延期してほしい」といった連絡が3月中旬に届いた。一連のメールを読み返すと、わずか3週間でモントリオールでも社会状況が急変した様子がひしひしと伝わってくる。

 コロナ禍によって展覧会運営に支障をきたした事例は、枚挙に暇がないはずだ。2019年2月に当館から立ち上がり、4会場を巡回した本展は途中閉幕となったが、最終会場まで到達し得たのは不幸中の幸いであった。しかし、3月後半に予定していた返却は、ウイルスを巡る正確な情報が把握しにくい中、様々なリスクを天秤にかけて判断していく、難しい調整が続いた。返却や点検には不可避的に近距離での接触が生じるが、出品者の方々にご理解をいただき、国内返却は概ね予定通りに実施できた。

 難題は、先に触れたモントリオールを含め、ニューヨーク、メンヒェングラートバッハ、ユトレヒトへの海外返却であった。今回はクーリエが来日しない借用であったが、輸出期限や保険期間の調整に加え、欠航に伴う空輸ルートの大幅な変更も発生した。さらに外出制限のある各都市において、そもそも輸入通関、配送、作品の受取が安全に遂行可能なのか、見極める必要があった。カナダ建築センターと同様、日本側でしばらく作品を保管する要望が出品者からあがる一方、事態の改善は見通せず、むしろ欠航が拡大していった。

 悩ましい状況の中、経由も含め空輸ルートが確保し得るものは、現地の所蔵者と密に連絡を取り合って、順次、迅速に返却する方針に踏み切った。この判断は結果的に功を奏し、遅延は生じたが、5月までに海外の全所蔵者に作品を届けることが叶った。ただし、この判断が美術作品を扱う上で、最良の選択肢であったか否かは、今も自問している。

 混乱した事態のなかで業務を進める際に鍵となるのは、出品者との信頼関係である点を改めて実感した。特に遠く離れた海外の出品者には、最新の情報を速やかにかつ明確に提供することが必須であろう。信頼関係の構築こそ、困難を乗り越える際の最大の力になるのだ。

末筆ながら、コロナ禍による変更調整にご協力いただいた、日本通運をはじめ、本展の出品者・協力者の皆様、巡回展開催館と美連協のご担当者の皆様に、改めて感謝を申し上げたい。

美連協ニュース147号[2020年8月号]より転載
(※役職、所属は掲載時)

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